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甲府地方裁判所 平成7年(行ウ)6号 判決

原告

有楽開発株式会社(X)

右代表者代表取締役

岡田清文

右訴訟代理人弁護士

篠原芳雄

篠原由宏

中野正人

被告

山梨県知事(Y) 天野建

右訴訟代理人弁護士

細田浩

右指定代理人

秋山貴司

三井孝夫

功刀哲也

山本正雄

深沢勝彦

原田育生

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事実及び理由

第一  請求

被告が、山梨県ゴルフ場等造成事業の適正化に関する条例に基き、平成七年七月一六日付不同意通知書をもって原告に対してした、「ゆうらく増穂カントリークラブ」ゴルフ場造成事業について同意をしない処分を取り消す。

第二  事案の概要

〔中略〕

一  判断の前提となる事実

〔中略〕

1  原告は、その代表取締役らが地元の増穂町関係者の誘致を受けて設立したゴルフ場の経営等を業とする会社である。

2  出梨県(以下「県」という。)においてゴルフ場造成事業を行おうとするときは、山梨県ゴルフ場等造成事業の適正化に関する条例(以下「条例」という。)により、あらかじめ事業計画について山梨県知事(以下「知事」という。)との事前協議を経たうえ、その同意を得なければならないこととされている(四条一項)。条例の目的は、「災害を防止し、秩序ある土地利用を図り、安全で良好な地域環境を確保するため、ゴルフ場等の大規模な造成の事業の適正化を図り、もって、県民の福祉に寄与すること」にあり、知事は、当該事業に同意をするか否かの判断については、条例六条一項に規定された、周辺地域の将来の発展に貢献することなど九項目の事項を勘案してするものとされている。

なお、知事に対する事前協議の申出は当該事前協議書を造成事業の造成区域の所在する市町村の長を経由して提出することとされ(条例施行規則一四条)、当該市町村に対し事業主から事前協議の申出があると、当該市町村において、あらかじめ土地利用、地域振興、防災及び事業主の施工能力等の諸点について十分調査・検討のうえ、事前協議準備書を作成してこれを県に提出し、県は、これに基いて当該造成事業の造成見通しが得られると判断したものについて、事前協議に応じる旨を通知する取扱いになっている。

3  原告は、昭和六二年、「ゆうらく増穂カントリークラブ」の名称によるゴルフ場造成事業(以下「本件事業」という。)につき事前協議準備申出書を増穂町長に提出し、平成二年一一月には、知事に対し事前協議書をもって事前協議の申出をし、これが受理された。

4  本件事業は当初、地元関係者に好意的に迎えられたが、平成三年ころまでには自然環境保護及び水質保全等を理由とする住民の反対運動が徐々に広がり、本件事業予定地が一級河川である利根川及び戸川に挟まれて位置すること、戸川につきダム建設計画が持ち上がったことなどの事情もあり、反対運動は次第に活発化した。平成五年になると、本件事業予定地のほぼ中央に位置する南山共有林と呼ばれる土地(南巨摩郡増穂町春米南山二八四四番二原野・現況山林・以下「本件土地」という。)の共有者と名乗る同町春米地区(以下「春米地区」という。)住民の一部の者らが、知事や原告に対し本件事業に同意しない旨の通告をしたり、これらを被告として訴訟を提起するなどした。

5  本件土地は本件事業の実現に不可欠な土地であるところ、県は、このような反対運動に接し、本件土地が入会地であり、その入会権者の一部が地権者の立場で本件事業に反対していることが、知事の同意をするか否かの判断において重要な問題点(同意の障害になり得る事情)であると認識するに至った。そのため、県は、原告に対し、反対地権者の同意を取り付けるよう指導し、当初予定されていた事前協議手続上の審査期間を一年間延長してその後の経過を見守ったが、結局右同意は得られず、平成七年五月には増穂町長から県林務部長に対し、本件土地の反対地権者二三名の説得に進展がない旨の報告がされた。

6  被告は、原告に対し、平成七年七月一七日付不同意通知書をもって、「当該ゴルフ場造成の上で、不可欠な位置にある春米区南山共有林について、当該共有林の管理規約に基づく地権者の同意が得られていないこと、また、今後、その進展の見通しもないということから、事業実現性の見通しが確認できないものであること」「上記の状況にある本ゴルフ場計画を推進することは、地域に混乱を生じさせるおそれがあり、地域の将来の発展に貢献するものとは思料されないこと」を理由に掲げ、本件事業について同意をしない旨の通知(以下「本件不同意」という。)をした。

二  本件不同意の適法性についての当事者の主張

1  被告

本件土地は、本件事業予定地の約一八パーセントを占めるだけでなく、その中核的な位置にあるから、これを外しては本件事業の実現は無理であるところ、これが春米地区住民の共有の性質を有する入会地であり、その処分については、入会権者全員の同意が必要であるのに、一部の者が本件事業に反対して前記一4のような活動をしており、原告が右同意を得られる見通しはない。

したがって、前記一6の理由による本件不同意は適法である。

2  原告

(一) 地権者の同意が存在すること

(1) 本件土地については、部落共同体である春米区による現実の占有利用が存在しないから、入会権はその実体を失ったものである。春米区は昭和四一年、分収造林を目的として本件土地に財団法人山梨県林業公社(以下「公社」という。)の地上権を設定し、土地登記簿上所有権を同区から大久保義張外四名(以下「登記名義人」という。)に移転しているから、少なくともこの時に入会権は消滅した。

(2) 原告は、本件事業について本件土地の登記名義人の同意を得ている。そして、春米地区においては、下部組織である各「組」における本件事業についての同意決議が地区全体の会議に持ち寄られ、同意することが機関決定されている。

したがって、原告は、本件事業につき、形式的にも、実質的にも本件土地の地権者の同意を得ている。

(3) 仮に本件土地が共有の性質を有する入会地であるとしても、その所有関係は総有であるから、その主体は部落共同体自身であって個々の構成員ではない。そして、総有団体である春米区は、右(2)の機関決定により、本件事業に同意する意思決定をした。

(4) 以上によれば、被告が、地権者の同意が得られていない、また今後その進展の見通しもないと認定したことには、根拠がない。

(二) 手続上の違法

原告は、県の指導に従って、本件事業の事前協議手続を進めてきたものであり、同意に必要な要件をすべて満たした。ところが、被告は、同意をすることを前提に各種の準備行為を指導したにもかかわらず、何の法的根拠もないまま外部の圧力に屈して、本件不同意をしたものであり、本件不同意は手続上違法である。

(三) 差別的取扱い

公社が本件土地に地上権を取得するに当たって行われた地権者の同意の形成は、前記(一)(2)の機関決定と同様であり、これに基いて当時の知事は公社の開発行為に許可を与えている。本件事業に対する地権者の同意が同一手続によってされたにもかかわらず、被告は本件不同意をしたことになり、これは明らかに差別的な取扱いであるから、本件不同意は違法である。

第三  当裁判所の判断

一  本件不同意の処分性について

条例によれば、県におけるゴルフ場造成事業についての知事との事前協議手続及び当該事業についての知事の同意は、造成事業を規制する砂防法及び森林法等の関連法令上の規制手続に先行するものであり(六条一項四号、条例施行規則六条)、しかもその違反行為については刑事罰が科される(四、一七、二六条)のであるから、知事がゴルフ場造成事業についてした同意をしない旨の通知は行政処分に当たるというべきである。

二  争点について

1(一)  〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

本件土地は増穂町春米南山二八四四番の土地から分筆された土地であるところ、右二八四四番の土地は、旧村である春米村ほか一一ケ村の住民が古来の慣行により入会している山林であったが、明治中期から春米、小林、落合の旧三ケ村の住民が、旧来どおり入会していた。

大正一三年に、右旧三ケ村は右入会地を分割し、本件土地について春米区のために所有権取得登記がされた。

戦後になると本件土地を実際に利用する者がなくなってきたことから、昭和四一年春米区は、公社との間で分収造林に関する契約を締結し、公社のために地上権が設定され、その旨の登記がされたが、その頃、本件土地の所有権登記名義が春米地区選出の増穂町議会議員等の代表者五名に移転され、また、本件土地の管理規約が作成された。この管理規約には、実質上の所有者全員の決議の結果でなければ所有権の移転や賃借権等の設定をしてはならない旨の規定がある。

(二)  右(一)の事実を総合すれば、本件土地は、旧村である春米村の後継団体である春米区の入会地であることが認められ、その構成員である春米地区の住民が本件土地について共有の性質を有する入会権を有するというべきである。なお、公社に対する地上権設定も入会地の利用の一形態といえ、原告主張のように、そのことから直ちに入会権が消滅したとはいえない。

2  ところで、入会権は、村落、部落等の一定地域の住民を構成員とする地緑集団が山林原野を共同で支配・利用する権利であり、構成員は持分を譲渡する等の処分を自由にすることができないから、その客体となっている土地の処分については構成員全員の同意が必要であるとされるが、前記認定のとおり、前記管理規約においてもそのことが明記されており、前記1(一)の事実に照らすと、これが慣習として確立しているものと認められる。したがって、原告が本件事業遂行のため本件土地を開発するためには、入会権者全員の同意により本件土地の所有権あるいは賃借権等の用益権を取得する必要があるところ、前記のとおり、入会権者である春米地区住民の一部が本件事業に反対しているのであるから、原告はこれらの権利を取得することができないというべきであって、春米地区の機関決定により本件土地についての権利を取得することができることを前提とする原告の主張は採用することができない。そうすると、本件土地の利用を不可欠とする本件事業が実現する見通しはないといわざるを得ず、したがって、本件事業が周辺地域の発展に貢献するもの(条例六条一項二号所定の勘案事項)ということはできない。

3  被告が原告に対し、本件事業について同意することを前提として各種の準備行為を指導したことを認めるに足りる証拠はないから、手続上の違法についての原告の主張は理由がない。

4  また、原告は、本件不同意は差別的取扱いである旨主張するが、そもそも地上権設定の場面と条例による規制の場面とでは法律関係が異なるから、両者を比較の対象とすることはできない。

5  以上によれば、本件不同意が違法であるとはいえない。

三  結論

したがって、本訴請求は理由がない。

(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 秋武憲一 佐藤和彦)

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